キミさえいれば
「今の人、ものすごい美人だったね」


私が椅子に座るなり、美咲がそんなことを言い出した。


「うん、そうだね。すごく綺麗な人だった」


清楚で上品で、なんとなくバレエとか習っていそう。


「あの子、吹奏楽部の西野綾香だよ」


急に、私の向かいに座る短髪男が話に入って来た。


私の中ではいつまでも短髪男なのだけど、彼には浮田翼(うきた つばさ)という立派な名前がある。


「浮田先輩、彼女の事知ってるんですか?」


美咲の質問に、浮田先輩が知ってるも何も…と意味深な表情をした。


「あの子、保のモトカノだよ」


浮田先輩が言った言葉に、心臓がドクンと大きく鳴った。


「えっ、うそ。

黒崎先輩って彼女がいたんだ」


そう言って、机に身を乗り出す美咲。


「一年の時にさ。

彼女の方から告白して来て、数ヶ月付き合ってたよ。

でも、彼女の方に他に好きな人が出来たとかで、保が振られたんだ」


黒崎先輩が振られた……?


「へぇぇ。黒崎先輩を振るなんて、すごい人ですね」


私はなぜか複雑な気持ちになって、スカートをぎゅっと握った。
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