キミさえいれば
振り返ると、見知らぬ男子が一人立っていた。


一年なのか二年なのか、それすらもよくわからない。


「白石さん、誰とも踊らないんだったら、一緒に踊ってくれませんか?」


「えっ?」


本当にこんなふうにお誘いがあるんだ。


びっくり……。


でも全く知らない人だし、さすがに困る。


「ご、ごめんなさい」


そう言って頭を下げると、その人は残念そうに行ってしまった。


しばらくすると、また知らない男子が来て、ダンスを申し込まれてしまった。


そんなことが何度も繰り返され、気がつけば私は大勢の男子に囲まれ、次々に申し込まれていた。


どうしよう。


消火器担当だから、この持ち場を離れることも出来ないし。


しかも、人数がどんどん増えている。


ちょっと怖いなと感じていたその時だった。


「白石!」


張りのある大きな声。


誰だろうと思って、視線を向けるとそこには。


「先輩……」


黒崎先輩が立っていた。


嬉しい。


やっと先輩に会えた……!


「悪いけど、白石は俺と約束してるから」


そう言って、私の手を引いて歩き出す先輩。


すると、私の周りを取り囲んでいた男子が、蜘蛛の子を散らすように散らばって行った。
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