キミさえいれば
先輩は私の手を引いて、火の近くへと歩いて行く。


私達のすぐそばで、大勢のカップル達が踊っている。


「あの……、先輩?」


私が呼ぶと、くるりとと振り返る先輩。


「踊ろうか」


「えっ、踊る?」


戸惑う私の事なんて気にも留めずに、先輩は私の手を自分のの腰へと持っていく。


そして私の背中に自分の両手を回すと、音楽に合わせて静かに左右に揺れ始めた。


それは、いつか観た洋画のチークダンスのように……。


「ごめんな。遅くなって」


頭上に響く先輩の声。


「怖かったろ?

あんなに大勢の男子に囲まれて。

すぐ行きたかったんだけど。

俺も女子に捕まっててさ……」


「そうだったんですね」


「うん……」


日がどんどん暮れていき、気がつけば空には星空が広がっていて。


ふと先輩に視線を向けると、先輩はやけに優しい瞳で私を見つめていて。


その顔に胸の奥がキュンと音を立てた。


私達はしばらく黙ったまま、音楽に合わせて身体をゆっくりと揺らした。


「白石……」


「はい?」


「あの、さ……。

今日で最後にしたいんだけど……」


「え……?」


最後?


最後って何?


どうしよう。


なんだか嫌な予感がする。


もしかして先輩……。


「白石のお兄さんの代わりをするのは、今日で最後にしていいかな?」
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