キミさえいれば
その日の放課後、私と先輩はいつものように一緒に下校し、先輩は道場へ、私はバイト先へと向かった。


21時にバイトが終わった私は、自転車を手押しして道場に向かい、道場の入口で先輩を待った。


私があまりに頻繁にここに来るから、ここに通う生徒さんとはすっかり顔見知りになってしまった。


しばらく待っていると、練習を終わった先輩が出て来て、私達は自転車に二人乗りして家路へ向かった。


私のアパートの近くに来ると、いつもの公園のベンチに腰掛ける。


もうここまでの流れは、習慣のようになっていた。


「気のせいか? 今日の凛、無口だな」


黒崎先輩が、ふいにそんなことを言い出した。


昼間、美咲と田辺君がキスしているところを見てしまったせいかもしれない。


美咲と田辺君は、私達と同じように去年の文化祭の日から付き合い始めた。


同じ時間が流れているのに、どうしてこうも違うのかと、比べてしまう自分がいた。


そして何より、綾香さんとはしていることを、どうして私にしてくれないのか、それがすごく気がかりだった。


「どうした? 何か悩みでもあるのか?」


そう言って先輩が、心配そうに私の顔を覗き込んだ。

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