キミさえいれば
「ガマンして、バカみてぇじゃん。

ずっと……、したかったのに……」


先輩の言葉に、ドキッと心臓が跳ね上がる。


ずっとって……。


先輩も、私と同じ気持ちだったの……?


「凛……」


せつなそうに私を呼んで、大きな手で私の左頬を優しく包み込む先輩。


ど、どうしよう。


こ、心の準備が…。


先輩の綺麗な顔が、ゆっくり私に近づいて来る。


こ、これって、いつ目を閉じたらいいの?


早く閉じたら、いかにも待ってましたって思われないかな?


ずっと待ち望んでいたのに、いざとなると……。


先輩の顔があと数センチのところまで近づいて、勝手に目が閉じてしまったその時。


私のおでこに、コツンと何かが当たった。


「あ……」


先輩の少し間抜けな声が聞こえて、私は目を開けた。


「ごめん……。

眼鏡が当たるとか、最悪」


先輩が恥ずかしがるから、私も恥ずかしくてたまらない。


しばらく流れる沈黙。


く、苦しい。


今日はもう無理だよ。

 
先輩の気持ちはわかったし、もうそれだけで充分。


「せ、先輩。わ、私そろそろ帰ります」


そう言って、ベンチから立ち上がった。


「凛!」 
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