キミさえいれば
「なぁ、凛。

前から聞いてみたかったんだけど、どうしてそんなにバイトしてるんだ?

やっぱりその、生活が厳しいとか?」


申し訳なさそうな顔をする先輩。


「あ、いえ。そういうわけじゃないんです」


「じゃあ、やっぱり何か欲しいものでもあるの?」


どうしよう。


こんなこと、先輩に言っていいのかどうか……。


「あの……。兄を……。

兄を探したくて……」


意外な回答だったせいか、先輩が「えっ?」とビックリしたように目を見開いた。


「私の兄、今どこに住んでいるのかわからないんです。

連絡先も知らないし、前住んでいた場所にも住んでいないんです。

だから、兄を探すための費用を稼いでるんです……」


こんなことを聞かされたら、きっと先輩はリアクションに困るよね。


でも、先輩に隠し事なんてしたくないから。


「そうだったんだ。

兄貴を探すためだったんだな。

だったら、しょうがないよな……」


ボソッと呟いて、ゴロンと芝生に寝転ぶ先輩。


そうしたら先輩の長い前髪が、ゆらゆらと風に揺れた。


「ねぇ、先輩。

先輩の前髪ってちょっと長過ぎませんか?

先輩カッコイイから、もっと短くても似合うのに」

 
眼鏡にかかって、ちょっとうっとうしそうなんだよね。


もちろん、それでも充分素敵だけど……。
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