キミさえいれば
この世にこんな美しいものがあるのかと思った。


目の前に横たわる凛は、穢れを全く知らない純真無垢な少女で。


俺は触れることはおろか、見る事さえ許されないような気がした。


「凛……。やっぱり今日はやめないか?」


「え……?」


凛が閉じていた目を開けた。


「先輩、どうして……?」


凛の目に、あっと言う間に涙が溜まる。


「凛、誤解しないで。

凛の事は好きだよ。

どうしようもないくらい好きだけど……」


「けど……?」


「なんか、まだ早い気がするんだ。

大丈夫だよ。

焦ってしなくても、もう少し凛が大人になるまで、俺はいつまでも待てるから……」


「先輩……」


俺は凛にそっと布団をかけてやった。


すると、凛の目から涙がはらはらと流れていき、しばらくすると声を上げて泣き始めた。


「凛……。そんなに泣かないで……」


「だ、だって……」


凛の体が小刻みに震えている。


きっと、さっきの怖い記憶がそうさせてるんだ。


消して欲しいって言ってたもんな……。


「凛、本当にいいの?

後悔……しない?」


「後悔なんか……しない。

他の人に奪われる方が、いやだから……っ」


凛の悲痛な叫びに、俺はもう完全に理性が飛んでいってしまった。
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