アメ、ときどきチョコレート
「はい」


 わたしは芽衣にもう一回ハンカチを手渡した。


「もうこれで最後だからね、ハンカチを渡すのは」


 芽衣はわたしから受け取ったハンカチを持って、ただ震えている。


「……大丈夫だよ、もう」


 芽衣はそう言って、屋上のドアを開けようした。



「だめだよ」



 わたしはピシャリと言った。



「心の整理ができてないまま、行っちゃだめ」



 その言葉に、ピクリと芽衣が止まる。そして、へなへなとしゃがみ込む。



「……俊と、仲直りしたいよ……。俊と、……もっと話したいよ……」



 芽衣の言葉の端々に、嗚咽が交じる。初めて見た。芽衣が泣いているところ。

 いつだって芽衣は、我慢をしていた。弟が二人もいることもあって、責任感があって、いつも自分は我慢をしていた。



「……そう思えるなら、謝ってくれば?俊にも伝わるでしょ」




 芽衣は、うん、と頷いて、また駆けて行った。



 ふう、とため息をついた。俊一は、きっと、芽衣のことを好きだろう。ーーーたぶん。




 わたしには、二人の幼なじみがいる。一人は芽衣で、もう一人は俊一。女子二人に男子一人という関係もあってだろうけど、小学校の時は、わたしと芽衣はいつも一緒にいたけど、俊一といっしょにいることはあまりなかった。



 でも……。



 芽衣は、ごく自然に俊一に惹かれていた。


 あれは、小五のバレンタインデーの事だった。





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