アメ、ときどきチョコレート
「今年は俊にチョコを渡すんだ!」


 あの時、芽衣が目をキラキラさせてそのことを教えてくれたことを覚えている。


 だけど……。


 あの時、俊一には好きな人がいた。で、その俊一の好きな人も、俊一のことが好きだった。つまり、両想い。小五で両想いって、ませ過ぎじゃないだろうか。いや、話が反れた。これを知りながら、チョコを渡せると思う?絶対に渡せない。


 
 俊一の好きな人は、芽衣ではなかった。芽衣もすごくかわいいんだけど、クラスでもすごくモテる女の子。その子のことが、俊一は好きだった。


「やっぱ、チョコを渡すの、やめるね」


 芽衣が、笑いながら、でも、やっぱり何かをこらえて、わたしにそう告げた。


 わたしは、


「そう」


 としか言えなかった。



 あれから三年。芽衣の恋は、叶った、はずだった。でも、わたしは聞いてしまったのだ。

     
     俊一は、芽衣とも喧嘩しちゃったし、他に好きな人がいるんだって。

 
 そんな、女子の噂をだ。女子の噂なんて、何が本当で、何が嘘か、わからない。でも、でも、でも……。


 わたしの胸には、モヤモヤしたものしか残らなかった。






「振られちゃった」


 教室に戻ったわたしに、芽衣はいきなりそう告げた。


「え……?」


 え、振られた?誰が?芽衣が…?そんなバカな、だってあの芽衣だよ……?


「おーい、各自席つけよー」


 数学の先生が入ってきた。でも、わたしはその時間、集中することなんか、できなかった。



 放課後。




「美和ー?おい、お前すぐ転ぶからボーッとしてるんじゃないぞーっ?」


 和哉がわたしの顔を覗き込みながら言う。


「ま、お前にゃ好きな人いないし、恋わずらいじゃないから安心だな」


 和哉は淡々とそう言うと、わたしの前を歩き出した。


「ちょっと、あんた何気に失礼なこと言ってんのよ!」


 その途端、冷たい北風がビュッと吹いてきて、わたしは思わずバランスを崩しそうになった。


「おわっ!!」


 ジタバタするわたしを和哉が支え、わたしはバランスを保つ事ができた。


「……ありがと」


 わたしの言葉に、和哉が微笑む。

 

 わたしはこんなに幸せなのに、芽衣は悲しいのか……。

 そう考えると、わたしの気持ちはずん、と重くなる。


 


 

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