ハート交換
「まだ、5分しか過ぎてないじゃん。遅刻とは言えないね。」



「はぁ?これから俺の大切な試合があるっていうのに。お前、応援する気ないだろ?」



「あるに決まってるでしょ!じゃなきゃ、こんな暑い日にわざわざ外に出ないよ。」



「もういい。行くぜ。遅刻する。」



ベンチに座っていたカップルは喧嘩の真っ最中であったが



しっかりとお互いの手を握りあっている



この炎天下の昼下がりの時に



それを見た女性は、本当に嬉しくて涙が出そうになるのを必死に押さえた




「あっ、ママ。パパだよ。」



小さな女の子が指さす方向にスーツ姿の男の人がいる。



満面の笑みを浮かべてヒカルちゃんとママに手をふっていた



「ユリ―、ヒカル―遅くなってゴメンな―。」



「ヒカル、パパのとこ行こっか?」



「うん!!」



親子は立ち上がり噴水から離れるようにパパの所に向かう。



女性はもう一度、そのカップルを見つけながら呟いた




「晃、今度こそ幸せになってね。」



その呟きは、セミの鳴き声にかき消されてしまった



空には、高く高く入道雲が静かに流れていた。







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