ナムストーンPART3

危機1

1997年秋、シャリフとムシャラフは軍総司令部で

二人きりで会談した。来春のインドの総選挙で右派が

勝利しそうだという情報が各地から頻繁に届くようになったからだ。


年ごとにイスラム過激派のテロが多発し民族主義

ヒンディ至上主義派の台頭が著しい。これは予想できたことだが

いよいよ決戦の時を迎えつつあることは実感できた。


もし右派が圧勝して政権を取ったならば、その時中距離弾道

ミサイル実験を強行する。それによって新政権の出方が

わかるから和解も有利に導いていける。


そうでなければ核保有を天下に知らしめるのみだ。年明けとともに

25のミサイル基地が完全臨戦態勢に入った。


ガウリは右ポケットの不思議な石が小刻みに震え鈍く輝いている

ことを数日前から知っていた。ナムストーンとかって不意に口を

ついて出た言葉で祈ってみても輝きは収まらなかった。


その春ついにインドで政変が起きた。インド独立以来の

国民会議派がヒンデゥー至上主義の右派政党インド人民党に

とってかわられたのだ。


パキスタンは中距離弾道ミサイルの発射実験を強行する。

インドは直ちに反応した。24年間凍結していた地下核実験を

世界の非難をはねのけて強行したのだ。


ついにパキスタンも対抗して初の地下核実験を強行し

核保有があからさまになった。極度の緊張がカシミールに走る。
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