アイツと私の世間事情
「ぜぇ…ぜぇ…」

ようやくある程度まで学校から離れ、立ち止まった。

ギリギリあの女の子達には気がつかれなかったらしい。

何で私がこんな目に合わなきゃいけないのよ…

「あいつのせいだ…」

八つ当たりなのはわかっているけど、ふつふつと煮えたぎる怒りはどうにも収まらなかった。

「あー、もう中島の馬鹿野郎ーー!」

道端ではあるが、大声で叫ぶと少しすっきりした。

「よし、帰るか」

…この時何事も無く帰れると思っていた私が馬鹿だった。

「ん?誰が馬鹿だって?」

そこにはにっこりと微笑んだ中島が立っていた。

「え…いや、あの、聞き間違いじゃない?」

冷や汗をダラダラとかきながら私は必死で誤魔化そうとした。

「へぇ、じゃあこれはどういう事なのかな?」

中島が取り出したのは小型の音声録音機。ぽちりとボタンを押すとバッチリさっきの私の叫びが録音されていた。

にっこりと笑いながらじりじりと近寄ってくる中島と冷や汗をかきながら後退する私。

ああ、神様は私の事が嫌いなのだろうか?もう壁に追い詰められてしまった。

「ばっ、馬鹿に馬鹿って言って何が悪いのよ!?」

こうなったら開き直るっきゃない、中島をキッと睨みながら、私は言った。

「へー、つまりそれは俺が馬鹿だと言いたいのかな?」

トンと私の顔の横に手をつき逃げ道を無くす中島。

…どうでも良いけど、顔が超近いんだけど!?

「でも、現にそうでしょ?あんた成績で一回も私に勝った事無いじゃない!」

実は私は運動はてんで駄目だが、勉強だけには自信がある。基本的には1位~6位ぐらいには入るほどである。

それに対して中島は勉強に関しては至って普通の平均である。

私が中島に唯一勝てる物、それが勉強である。

「ふーん、じゃあ次の期末テストで俺が葵よりも点数が上だったらどうする訳?」

ここまで馬鹿にされているというのに中島はなおも余裕そうに笑いながら言った。

「そりゃ…あ、謝るよ」

「ふーん、謝るだけか…」

不満そうに中島は言った。

「〜っわかったわよ、なんでも言う事聞くわよ!」

「その言葉、忘れるなよ?」

中島は満足そうににんまりと笑いながら私に確認した。

「その代わり、私が勝ったら言う事聞きなさいよね!」

「もちろん」

気味が悪いほど機嫌が良い中島を睨みながら私は逃げるように家に帰った。

< 19 / 22 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop