「1つだけ、嘘をついたんだ」
永人は冷たい手で、私の温かい手を握った。
優しかった。
触り方も、無言の雰囲気も、全てが。
風も太陽も、優しくするような、そんなあなたが大好きなの。
「ねえ、永人。
帰ったら、紅茶淹れてよね。
とびっきり、おいしいのが飲みたいの」
少しわがままに、どこかのお嬢様のように言ってみた。
空元気だということくらい、永人には意図も簡単に分かったのだろう。
「失礼だなー。
僕の紅茶は、いつもおいしいんだけど」
永人は本当に、紅茶を淹れるのが上手だった。
カモミールだって、アップルティーだって、なんだっておいしく淹れてくれた。
茶葉もいいやつだからだろうけど、私が淹れるのとは月とすっぽんのように、永人の淹れる紅茶は美味しかった。
「知ってるよ、だって永人だもん」
「それ、理由になってないよね?」
私も永人も、何かを忘れようとするために、涙が出るほど笑った。
でもね、本当はちょっとだけ泣いたの。
笑って出た涙を装って、本当は少し泣いたんだ。
だって、泣けてくるよ。
もしかしたら1週間後には、永人はもうずっと眠ったままになるかもしれないんだから。
永人だって、泣いてたでしょ?
袖で笑い泣きを拭き取るふりして、泣いてたでしょ?
それ見て、私、また涙が出た。
永人は今まで1度も、涙を見せたことがなかったから。
どんなに泣ける映画を見ても、通りすがりの人に差別用語を言われても、あなたは1度も涙を見せなかったのに。
「えいと・・・・・・好きよ。
永人が本当に好きなの」
笑い声にまぎれて、私は言った。
初めて言ったわけじゃない。
今まで何度も言ったことがある。
ただね、聞こえないように言ったのは初めてなの。
聞こえていたら、もっとあなたは無理して笑うでしょ・・・・・・?