「1つだけ、嘘をついたんだ」
「ただいまー」
私と永人の、目の下に涙の残る笑顔を見て、お父さんは何も聞かなかった。
思い出したように、茶葉買ってこなきゃ、と永人は言うと、急いでいってきまーすと言い、家を出て行った。
「永人は、だめなのか」
「うん。
もって一週間だろうって・・・・・・。
何で、永人は永遠の人じゃないの?」
お父さんの両腕を揺さぶりながら言った。
堪えていた涙は、川が決壊するように溢れだした。
「そうだよ。
だけど、本当は永遠なんて存在しないんだ。
父さんだって、母さんとずっと一緒だと思ってた。
神様はいつだって、意地悪なんだよ」
お母さんは、私が3歳の時に、事故で亡くなった。
私とお父さんは二人とも塞ぎ込んで、そんなときに第1ロボットが発売された。
裕福な家庭だった我が家は、まるでそれが運命のように、購入を決意した。
今では、一家に1台と言っていいくらい、ロボットは普及されているのだけど。
「嫌だ、嫌だ、嫌だ。
永人がいなくなるなんて、そんなの考えられないよ。
ずっと一緒にいたいよ」
泣きじゃくる私に、お父さんは頭を撫でながら言った。
「わずかな時間を大切にしなさい。
父さんなんて、別れも突然で、何一つしてあげれなかったよ」
辛いのはお父さんも一緒なのに。
これ以上、誰も失いたくなかったのに。
だから、永人と名づけ、私と同じくらい可愛がった。
お父さんだって、同じくらい辛いんだ。
それなのに、泣きじゃくる私の頭を、ゆっくりと撫でてくれる。
今頃、永人も泣いてるのかな?
だって、遅すぎるよ。
茶葉買いに行くのに1時間かかるなんて、嘘だよね。
でも、溢れる涙を流すにはそれくらい必要だった。