「1つだけ、嘘をついたんだ」

赤く腫れた目を、蒸しタオルで冷やしていると、永人は帰ってきた。

手には私のお気に入りのダージリンの茶葉を持っていた。



「あ、セカンドフラッシュだ」



パッケージを見て、驚いた。

もう夏摘みの季節なんだ、と。



「だって、ダージリンはこの時期が1番おいしいでしょ?」


ダージリンは夏摘み、つまりセカンドフラッシュの時期が、香りも味も充実するのだ。


「やった!
本当に、永人は紅茶について、詳しいよね。
まあ、それだけ紅茶が好きってことかあ」


永人は本当に、紅茶については特に詳しかった。


「んーそうだね。
でも、基本的僕は大抵のことに詳しいけどね」


元々プログラムされた知識でさえ、17年生きた私よりも豊富なのに、加えて、お父さんが次から次へと本を読ませた。

永人いわく、私が学校に行っている間は、全て読書タイムと言っても、過言ではないらしい。


「でも、好きなものって特に知りたくなるんだよね」


「ああ、そうかもね。
だって、記憶力皆無の璃羽でも、紅茶については大分物知りになったしね」


悪戯っぽく、永人は微笑んだ。

頬を膨らませている私を見て、永人はこつんと拳を頭に当てた。


「ごめん、ごめん。
嘘だよ。
夕食終わって、お風呂入ったら、淹れるね」


うん、と言おうとしたけど、永人の優しい笑みに言葉を失った。


それからは、本当にいつも通りだった。

お父さんが腕をふるい、アシスタントに永人、微力ながら私も手伝い、夕食を作る。

夕食の時間も、私とお父さんは話すのが好きで、それに時折相槌を打つのが永人だった。


永人は聞き上手で、そんな永人がいなくなるなんて、考えられなかった。



< 5 / 13 >

この作品をシェア

pagetop