「1つだけ、嘘をついたんだ」
赤く腫れた目を、蒸しタオルで冷やしていると、永人は帰ってきた。
手には私のお気に入りのダージリンの茶葉を持っていた。
「あ、セカンドフラッシュだ」
パッケージを見て、驚いた。
もう夏摘みの季節なんだ、と。
「だって、ダージリンはこの時期が1番おいしいでしょ?」
ダージリンは夏摘み、つまりセカンドフラッシュの時期が、香りも味も充実するのだ。
「やった!
本当に、永人は紅茶について、詳しいよね。
まあ、それだけ紅茶が好きってことかあ」
永人は本当に、紅茶については特に詳しかった。
「んーそうだね。
でも、基本的僕は大抵のことに詳しいけどね」
元々プログラムされた知識でさえ、17年生きた私よりも豊富なのに、加えて、お父さんが次から次へと本を読ませた。
永人いわく、私が学校に行っている間は、全て読書タイムと言っても、過言ではないらしい。
「でも、好きなものって特に知りたくなるんだよね」
「ああ、そうかもね。
だって、記憶力皆無の璃羽でも、紅茶については大分物知りになったしね」
悪戯っぽく、永人は微笑んだ。
頬を膨らませている私を見て、永人はこつんと拳を頭に当てた。
「ごめん、ごめん。
嘘だよ。
夕食終わって、お風呂入ったら、淹れるね」
うん、と言おうとしたけど、永人の優しい笑みに言葉を失った。
それからは、本当にいつも通りだった。
お父さんが腕をふるい、アシスタントに永人、微力ながら私も手伝い、夕食を作る。
夕食の時間も、私とお父さんは話すのが好きで、それに時折相槌を打つのが永人だった。
永人は聞き上手で、そんな永人がいなくなるなんて、考えられなかった。