「1つだけ、嘘をついたんだ」
「セカンド、セカンド、セカンドフラッシュ!」


まだ濡れた長い髪をタオルでバサバサと乾かしながら、歩いていた。


「なに、言ってるの?
もう、本当に璃羽は独り言が多いんだから」


ひょいとキッチンから顔だし、永人は言った。


「いーの!
だって、独り言だって誰かが返事してくれれば、会話になるでしょ?
だから、大丈夫なの」



はっとする。



独り言が会話になるのは、永人がいてくれてるからだ。

こんなこと永人に言われたのは初めてだった。


そっか、永人は少しずつ、消える準備をしてるんだ・・・・・・。

いつ消えても大丈夫なように、思い残しがないように、準備してるんだね。



「はい、どうぞ」


ことん、という音をたて、ダージリンは私の前に来た。


上品な香りが、鼻に透き通る。

明るくやや濃いオレンジ色が、何故か涙をそそった。


肩にかけていたバスタオルで、目を強くこすった。


「おいしい。
おいしすぎて、涙が出そう。
ねえ、永人も飲んで」


永人は、私の前に腰かけ、一口すすった。

ふーっ、という安堵の声が、永人から漏れていた。


「僕ね、1つだけ嘘をついたんだ」


え?と聞き返すと、永人は微笑んで繰り返した。



「1つだけ、嘘をついたんだ」



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