「1つだけ、嘘をついたんだ」
永人の次の言葉を待ちながら、私は一口ダージリンをすすった。
「僕は、紅茶が好きだったわけじゃないよ」
続けて、それに僕飲み物はそんなに得意じゃないんだ、と付け加えた。
「そうなの?」
「うん」
「でも、私・・・・・・」
永人の好きなものを聞いたら、いつも紅茶だったよ、と言おうとして、遮られた。
「うん、だけど違うんだ」
「何が違うの?」
うーんと考えながら、永人は細いクリーム色をした髪を、くしゃくしゃと触った。
そして、照れくさそうに笑いながら、言った。
「璃羽が嬉しそうに、
紅茶を飲んでいるのを見るのが、好きだったんだ。
略して、紅茶」
歯を見せて笑うのが少ない永人が、大きく口を開けて微笑んだ。
二重の大きな瞳が、若干細くなる。
そんな笑顔向けないでよ、と目をそらしたくなる。
「そういうの、結構殺し文句だって知ってる?」
「知ってるよ、だって僕だもん」
昼の情景が蘇える。
ずるいよ、永人。
一緒にいればいるほど、好きになっちゃうよ・・・・・・。
それなのに、もう別れは間近に迫ってるんだね。
コップに入っている残りのダージリンティーを、一気飲みした。
永人のダージリンも、ぐいぐいと飲んだ。
もったいないな、と思いつつ、私の手は止まらなかった。
唖然としている永人の手を、引っ張った。
やっぱり永人の手は冷たくて、でもどこか優しかった。
永人を自分の部屋に入れるのは、久しぶりのことだった。
いつもと違う雰囲気が、私の部屋に漂った。