彼が幸せであるように
 
 
 
「ごめん、急いでるから」
 
落ち着いた声。
少し冷たさを含んだその声に、
私は動きを止めてしまった。
 
 
その声の主に群がっていた女たちは、
ぽーっとしながら退いていった。
  
 
私も、その声を聞いて動けずにいた。
動きを停止していると、
後ろから足音が聞こえてくる。
 

 
その足音は、ついに私の後ろで止まった。
 
  
きっと今、後ろを振り向いたら、いる。
そう思うと鼓動が速くなるのを感じた。
  

「ちょっとそこ、どいて?」
 
 
その声とともに、バッと後ろを振り向いた。
  
 
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