そばにいたこと
無事にカレーが出来上がって、僕たちはサラダを作りはじめた。
この時には、カレーのいい匂いに誘われて、部屋で寝ていた部員たちもちらほらと食堂にやってきていた。
沙耶は、心なしか口数が少なくなってしまった。

「おい春岡ー、どこ行ったと思ったら女と一緒に食堂かよー。」

「うるさい。お前らが寝てる間に働いてたんだ。文句あるか。」

「沙耶ちゃんを独り占めすんじゃねーよ、春岡あ。」

カウンターから覗き込んで、藤堂が余計なことばかり言う。
藤堂はいい奴だが、沙耶のことを下の名前で呼ぶことだけは許せない。
僕はまた、機嫌が悪くなりつつあった。

「春岡くんは私なんか相手にしないよ。」

横で凛とした声が聞こえた。
驚いて見ると、ずっと黙っていた君がいつもの調子で笑っていた。

それを聞いた藤堂は、急に浮かない顔になってカウンターを離れていく。
なんだか気まずくなって、僕はうつむいた。


「なあ、伊藤。」


「え?」


振り返った君に、何か言わなければいけないことがあるような気がしていて。
それなのに、何て言ったらいいか分からなくて。

考えているうちにご飯が炊きあがったようで、先輩たちが動き始める。
慌てて僕たちも、カレーをよそりはじめた。

そして、その話題は流れた。
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