そばにいたこと
6日目の夜。
合宿で唯一気が抜けるのは、この時だ。
部員全員でバーベキュー。

でも僕は、内心それどころではなかった。
だから、途中で抜け出そうと、そう思っていたんだ。


ジュージューとバーベキューの匂いが広がる。
そういえば、お腹がすいたな、とぼんやり思う。

今日もみんなが目覚める前に起きて、ランニングをした。
毎日少しずつ距離を伸ばしていって、今日は湖までたどり着いた。
綺麗だ、なんて思う余裕もなかった。
ただ、黙々と走ったんだ。

「春岡!肉焼けたぜ。お前も食えよ。」

「おう。サンキュ。」

焼けた肉が僕の食欲を誘う。
沙耶たちがにぎったおにぎりにかぶりつきながら、僕は肉や野菜をつまんだ。
疲れた体に、エネルギーが満ちていく。
もう少し、頑張れそうだ。


「春岡、先発ってほんとか?」

突然話しかけられて、それが3年生のピッチャーということに気付くと、僕は急に食欲を失くした。

「はい。」

短く答えると、その先輩はニカッと笑った。

「俺のことなんか気にすんなよ。頑張れ。それで、俺たちを最後の甲子園に行かせてくれ、な。」

ほっとすると同時に、重圧が嫌でも心を押しつぶしそうになる。

「全力を尽くします。」

「ああ。」

そう答えながら、僕は歯を食いしばっていた。

先輩の気持ちを考えると、どうしても勝たなくてはいけない。
そう思った。
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