そばにいたこと
次の打者は、と向き合う前に、僕はそっと右肩を回そうとした。
でも、なぜか回らなかった。
まるで、自分の身体ではないみたいに。


次のバッターは、僕の最初の打球を打ち返した。
スリーベースヒット。
2アウト、バッター1塁、2塁。

僕は、背中から冷や汗が吹き出してくるのを感じた。
僕が初めて迎えたピンチだった。
それも、決勝の、この舞台で。

僕らのチームが守ってきた2点など、ホームランでも打たれたら簡単に逆転されてしまう。

――焦るな。まだ7回だ。

自分に言い聞かせる。

そして、軽く目を閉じた後、僕は――








肩に走ったのは、今度こそ正真正銘の「痛み」だった。







打ち返されるカキーン、という気持ちの良い音。
青空を、どこまでもどこまでも飛んでいく白球。

だれの目にも明らかだった。

ボールを追いかけようとは、誰もしなかった。








そして僕は、右肩を押さえながら、崩れ落ちるようにその場に座り込んだ――

< 22 / 54 >

この作品をシェア

pagetop