そばにいたこと
知っていた。
肩を壊した野球選手は、脚の折れた馬と同じなんだと。




もう、何も戻ってこない。




絶望の中、監督やチームメイトにベンチに運ばれた。
自分で歩く気力さえなくて。

脂汗が滲むほどに痛む右肩を、僕は痛めつけるように、左手で握りしめていた。


何よりも大事だった野球を、僕は……
名誉や名声のために、失ったも同然だった。

ただ、自由に、野球が出来ればそれでよかったころの僕はもういなかった。

それが悔しくて。
その結果、最悪の結末を迎えてしまったことが。
チームに最後の最後で、貢献できなかったことが。
悔しくて。




「春岡くん!!」




焦げ付きそうだった僕の思考回路に、君の凛とした声が久しぶりに蘇った。
固く閉じていた目を開ける。

あの日から、愚かな僕が君に告白をした、あの日から3週間。
初めて君が、僕を見下ろしていた。

真っ直ぐな眼差し。
でも、その目には溢れ出しそうに涙がたまっていて。

ああ、僕はまた、君を泣かせてしまったんだ、と思った。





「春岡くん、ほんとに……」



そこで言葉を失った彼女は、そっと僕の左手を握った。
爪が食い込むほどに強く、右肩を握りしめていた手を、いたわるようにそっと。

僕は一瞬でその左手を緩めた。
まるで魔法にかかったようだった。

同時に、限界までせり上がってきていた苦しい気持ちも、ほんの少し緩んで。
代わりに、視界が歪んだ。

男のくせに。
クールな男を気取ってるくせに。
いつも余裕ぶっていたくせに。

僕は次から次へと流れる涙を、止めることができなかった。


君は、沙耶は、そんな僕と一緒に泣いてくれたんだ。
僕の左手を握る君の手が、小刻みに震えていたことを、僕は忘れられない。


絶望の淵に立たされて、僕はきっとこの時。
初めて君のそばに立つことができたんだね。

その頃の僕は、何も知らなかったのだけれど。
あの時初めて、僕たちは同じ色の瞳のなかにお互いの存在を見出すことができたんだ――
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