そばにいたこと
たまに、君は電話でふざけて、敬語を使ったりした。

「もしもし、伊藤?」

「もしもし、春岡くんですか?」

「ああ。今、忙しい?」

「忙しくないと言ったら嘘になりますし、忙しいと言ったら電話を切られてしまうのではと。」

「忙しいって言えよ。」

「でもそしたら春岡くんのことですから、じゃあな、とか言い出すんですよ。」

「じゃあな。」

「あ、待ってください春岡くん。私が忙しいのは明日までの課題が終わっていないからなのですよ。」

「あ、そ。それが?」

「春岡くんが教えてくれればいいのです。そうすれば、話もできるし課題も終わるし。名案だと思いませんか?」

「ふっ。……ああ、そうだね。名案だ。」

そんなふうに結局、僕が折れる。
その度に、君は本当に嬉しそうに笑っていたね。
君の病気なんて、その笑い声にはかけらも含まれていなくて。
僕は時々、忘れてしまいそうになったよ。

僕は本当にばかだった。
君は片時も、病気を忘れることはなかっただろうに。

「春岡くんのこと、私は大好きですよー。」

そんな言葉をもらうだけで、君を幸せにしたつもりでいて。
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