そばにいたこと
ひとしきり泣いたあと、疲れたのか君はぐったりしてしまった。
僕は君を抱えたまま、ロビーの椅子に座る。
無理もない。
面会謝絶の病室から、ここまで抜け出してきてしまったのだから。

ぐったりと目を閉じる君の額には、うっすらと汗も滲んでいて。
僕は本当のことを言えば、どうしたらいいのか分からなかった。

「……沙耶、苦しいか?」

膝の上に君の上半身を乗せて、額に手を置く。
やはり君の体は、燃えるように熱かった。

君は何も話せなかったね。
僕に電話をかけるという行為で、君はすべての気力を使い果たしたようだった。

代わりに、君はその細い指を僕の方に伸ばした。
すぐにその手を、僕の手で包む。
あまり強く握ったら、君が壊れてしまいそうで。


しばらくその手を見つめていて、気付いた。
君の手から流れる血液に。

一瞬たじろいで、それが点滴を無理矢理抜いた跡だと気付く。
点滴の台を転がしながら来ることもできないほど、君は切羽詰まっていたのだろうか。


ごめんな。
僕が弱虫だから、結局は君にこんな思いをさせてしまって。
一人にしてしまって。

僕はこんなにも僕を必要としてくれる君の愛を、疑っていたんだね。
君を信じていなかったのは、僕の方だったのに。


持っていたハンカチで、傷を押さえた。

こんなにも痛い思いをして、寂しい思いをして。
なぜ、なぜ沙耶なんだろう。
僕が、代わってあげられたら、どんなにいいだろう。



君を病室のベッドまで運んで、ナースコールを押して。
君の腕に再び、点滴の針が押し込まれる。

それでも目を開けようともしない君を、いつか失ってしまうような予感に、僕は打ちのめされていたんだ――
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