そばにいたこと
僕はそのまま、君のベッドの隣の丸椅子に座りながら眠ってしまったらしい。
ふと目覚めると、時計は7時前を指していた。

今家に帰って、シャワーを浴びて、急いで支度をすれば学校には間に合う時間。

でも、僕は学校に行く気分ではなかった。
こうしてずっと、君の眠っている横顔を見つめていたいと思った。


「沙耶。」


君を起こさないよう、小さな小さな声で囁く。


「君を、失いたくないよ。」


どんなに鎮めようとしても、声が震えてしまう。
君が、霞の向こうに消えてゆく。

僕は乱暴に腕で目を拭った。


――失う?


そんなこと、誰が言ったんだ。
彼女は、生きるために手術を受けるのに。

失う予感はどこから来るんだろう。

君は昨日、僕と向き合ってくれたじゃないか。
臆病な僕の代わりに。
苦しいのに、公衆電話まで歩いたりして。


このままではいけない。


僕は荷物を肩にかけた。

これからの僕たちのためにも、今日は学校に行かなくてはいけない。


君の安らかな寝顔をもう一度見る。


「また、来るよ。沙耶。」


小さな声で囁いて、手を振った。

名残惜しくドアを閉める。


僕の心は、それでもなぜかちっとも晴れなかった。
君を失う予感で、心が満たされてしまったように――

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