そばにいたこと
無計画だった僕は君を連れて、途方に暮れたね。

一体どこまで逃げたらいいのか分からなかった。

その手を握りしめて、僕は君と、果てしなく逃げていきたかった。

限りあるところまで―――――




全く当てがなかったわけではない。

僕は、祖母の家を目指したんだ。

四国にある、祖母の家。


そこは、いつでも僕を受け止めてくれる場所だから。


小学生の頃、夏休みに親とけんかして、家出した。

お金なんて持っていなくて。

それでも、どうやって辿り着いたのか覚えていないけれど、僕は四国の祖母の家にたどり着いたんだ。


僕を迎えてくれたおばあちゃんの優しい、それでいて泣きそうな表情を、僕は忘れられない。



祖母の家には、二階に空いている部屋があったはずだ。

祖母ならわけを訊かずに、僕たちを受け入れてくれると思った。



高校なんて、どうでもよかった。



君がいれば、それでよかった―――



あの頃の僕は、現実性の欠片もなくて。

ただ、愛を語る口調だけは一人前だったね。





電車に乗って、身を隠すようにしていた。

君は、ずっと、一言も口をきかずに、車窓から外を眺めていた。



僕は、そんな君が怖かった。



目を覆っていたガーゼを取ったばかりの、痛々しい顔を、僕自身も直視できずにいて。



君は目が見えないのだから、そんなこと分かるはずないと思っていたのに。



きっと、君はすべて分かっていたんだね。
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