そばにいたこと
その日から始まった、君と僕との最後の一週間。

それは、長いような、短いような、不思議な気がするんだ。

そして、それは幸せだったような、不幸せだったような―――――



いずれにせよ、僕はこの一週間の記憶を一度封印したから、もうはっきりとは思い出すことができない。

その後、長い時間が過ぎてから僕は、カウンセラーの勉強をし始めて、そして知ったんだ。

僕は、その記憶を忘れてしまったわけではないと。

心のどこかに今もはっきりと抱えながら、それでいて脳が自分を守るために、思い出すことをできなくしているんだと。



ずるい、と思う。

人間はそんなふうに、都合よくできているんだ。


余りにも大きな音は聞こえないようになっている鼓膜。

小さすぎるものは見えないようになっている目。

敏感すぎない鼻、舌、皮ふ……。


上手く出来過ぎているんだ。

だから、僕は―――――


悲しすぎる思い出のなかにあるはずの、幸せさえも、思い出すことができなくて。




だけど、何故だかひとつだけ覚えていることがあるんだ。



僕が君に吐いたささやかな嘘。

誰も、傷付けないはずの小さな嘘を。






――――「春岡くん、夕焼けは見える?」




――――「ああ。見えるよ。綺麗な夕焼けだ。」





次の日は、雨だったのに。






そして、その雨の日に祖母の家には警官が現れて。

僕も、沙耶も、祖母も、警察に連れていかれたんだ。



沙耶の最後の優しさは、僕と逃げることは同意の上だったと話したことだね。



おかげで、僕も、僕たちをかくまった祖母も、咎めを受けることはなかった。



だけど―――――



それから君には、二度と会うことはできなかったんだ。







そう、二度と。






この世界のどこを探しても、もう君はいない。






声を枯らして叫んでも、あの病院の夜みたいに、君に会うことはできない―――――――
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