そばにいたこと
一日目から過密な日程だった。

桐生高校の野球部は、他校の甘っちょろい部活とは違う。
毎年、決まって甲子園への出場枠を手にしているような、強豪校なのだ。
だから、中学校時代に目立っていた生徒は、推薦でここに来ることができる。
僕も実は、そんな一人だった。

走り込みから始まって、キャッチボール。
実力主義のこの高校では、三年生だからと言ってレギュラーになれるとは限らない。
日ごろの練習から、監督が目を光らせている。

試合の時だけ強いのは、ただ運がいいだけ。
練習を頑張っていても、本番でくじけるのは努力が実になっていない証拠。

その双方において優れた選手が、輝かしい舞台に立つことにふさわしい。

それを知っている部員たちは、誰一人として怠けることなく練習に取り組んでいた。
毎日、人知れずトレーニングを積んでいる僕でさえ、苦しいと感じる。
他の新入部員は、皆顔を歪めていて、それでも途中で投げ出したりする部員はいなかった。

「春岡、お前余裕だな。あと一周してこい!」

「はい!」

汗が目に入って沁みる。
ゴール地点で膝をついて、肩を上下させる部員たちを尻目に、僕は悠々と一周した。
本当は、心臓が苦しいくらいに暴れまわっていたけれど。

僕の目は、ずっと前から君を捉えていたから。

ベンチでパタパタと扇ぎながら、タイムを測る君の姿を。


ゴールの線を踏むと、君は15分24秒、と言った。

「でも、春岡くんは一周余計だから、一周あたりのタイムを出して求めとくね!」

「ああ、ありがとう。」

「すごい、全然息が上がってない!みんな、倒れちゃってるのに。」

そう言った君の視線を辿ると、グラウンドの内側に倒れる複数の部員が目に入った。
僕だって、本当は膝が笑いそうだ。
水も飲みたいし……。

「はい、お水。」

そう言って君が渡してくれた紙コップの水は、ひんやりしていて本当においしかった。
この合宿で、君にほんの少し近づけたような気がして、僕は嬉しかった。
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