嫌魔
それからしばらくの間、おれは完全に気持ちが歪んでいた。
ちょっとおれの指を見てくれよ。ほら、形が変なふうになっているだろう?
あのあと、おれは彼女が死んだのは自分のせいだと思って、何度も指をかじったんだ。それでこうなった。おかげでいまでも、缶ジュースのプルトップをうまく開けられない。
だってそうだろう?
あの時おれが、もっと早く話しかけていれば、自殺を止められたかもしれないんだ。
彼女の名前が缶藤美代子だということは、その後、学校中に広まった噂を聞いて知った。
缶藤美代子。彼女も膜のせいで、様々な苦しみを味わってきたのだろう。だから、あんなことをしてしまったんだ。
いまでも後悔しているよ。なんで、話しかけなかったのか。おれだったら、彼女の苦しみを分かち合うことができたんだ。
あの日の後、おれは毎晩、缶藤美代子のことを考えた。
もしあの時、自殺を止めて、彼女と仲良くなれたらという仮定の出来事を何度も想像した。缶藤といろんな話をしたり、いろんな場所へ二人で遊びに行くところを、思い浮かべた。
そのうちに、おれはその空想上の缶藤に恋をした。
それが、おれの初恋さ。
気持ち悪いって?わかってるよ。
毎晩、彼女との逢瀬を空想した。夢にも見た。
そして我にかえり、彼女が死んだことを思い出しては、うめきながら指をかじった。