嫌魔
中崎は、おれを見ると、困ったような顔で、
「ああ、君か」
とつぶやいた。
おれも中崎を見て、困った顔をした。いや、正確には、どんな表情を浮かべればいいのかわからなくなって、ほぼ無表情になっていた。
中崎の全身は血まみれだった。スーツに、ズボンに、乾きかけた赤茶色の血が、こびりついていた。
沈黙があった。
それからしばらくの間、互いに、いや、ええと、とつぶやき、言葉を探しながら見つめあった。
「何、それ?」
やっと、おれの方からそう聞けた。
中崎は眉間にしわをよせながら、頭の中を整理するように天井を見つめた。それから言った。
「すごいタイミングで来たな君は。まあ、いいけどさ。とりあえず、説明をするからついてきなよ」
中崎は背を向けると、奥へむかって歩きだした。おれは迷ったが、すぐに自分には行くところがないことを思い出し、奴についていった。
中崎はおれを、畳の敷きつめられた広間に案内した。
なんとなく予感はあったが、その広間の光景を目の前にして、頭の中が、重くしびれた。
おそらくガジの会の人間であろう、二十人くらいの人間が、畳の上にたおれていた。
誰もが、おれと同じ嫌魔に包まれていた。
老若男女、いろんなひとがいた。
みんな、死んでいた。