嫌魔
「どうした?」
おれが駆けよると、中崎はため息をついてつぶやいた。
「だいぶ、血が抜けてきたみたいだ」
「血?」
中崎は無言で右腕をさしだした。
それを見て、おれは、ああ、とつぶやいた。
だが、何も感じなかった。驚き疲れて、感情が麻痺してしまっているのか。それとも、なんとなくこういうことを予感していたのか。
中崎の右手首には、ガラスの破片が刺さっていた。傷口から、どぷどぷと血が流れている。中崎の全身が血まみれだったので、めだたなくて気がつかなかった。
「あんた、それ・・・・・・」
「わたしだけが生きているってわけにはいかないだろう?君が来るちょっと前に、自分で刺したんだ。もうけっこう血が流れたんだけど、まだ死なないね。人間って思ったより丈夫なんだね」
そのあと、おれと中崎は何も話さずに過ごした。
中崎は、仲間の死体にむかって、手をあわせてじっとしていた。
いまは何を考えても、絶望的な気持ちになりそうだったので、おれはできるだけ頭の中を真っ白にして、窓から海をながめつづけていた。