嫌魔


「あ、そろそろ死ぬかな」
そうささやいて、中崎は寝転がった。顔が青い。相当血がぬけているようだ。


おれは黙って見つめていた。どんな態度をとればいいのか、わからなかった。


「あのさ」最後の力をふりしぼるようにして、中崎は言った。「さっきはあんなことを言ったけどさ、実は本当に神がやってきたんじゃないかと思っているんだ。きっと、仲間の魂は今頃、極楽浄土にたどりついているんだよ。だから、わたしも死んだら、極楽浄土へ行けるはずなんだ。だってみんな、何も悪いことはしていない。正しく生きてきた者ばかりなんだから」
おれに話すというよりは、自分に言い聞かせているような、そんな口調だった。


おれは、嫌魔が魂を吸うことを思い出して、やりきれない気分になった。


中崎はとつぜんひざに顔をうずめた。
「ああ、やっぱり死ぬのは怖い」
そのままの体勢で怖い怖いとくりかえしながら、中崎は息をひきとった。


おれはあらためて周囲を見わたした。死体だらけだ。こいつらの死に様は、あまりにもむなしすぎる。


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