嫌魔
もう一度、膜を確認しようとして顔をあげた。その瞬間、おれは目を丸くした。
膜が、こちらにむかってものすごい速さで落ちてきたんだ。このままじゃぶつかると思って、おれは目を閉じた。
そのまま数秒間、体を固くしていた。しかし、膜が当たる感触はなかった。
そっと目を開いてみると、まわりの風景が半透明になっていた。
滑り台や、ジャングルジムの輪郭がぼんやりとして見える。友達の姿も、うっすらとぼやけている。あわてて周囲を何度も見回してから、自分があの膜のなかにいることに気がついた。
いつの間にか、包まれていたんだ。半透明な膜の内側に入ったから、まわりの風景が半透明に見えたのさ。
おれはあわてて膜をひきはがそうとして腕を動かした。
しかし手は膜の表面をすり抜けて外に出た。まるで立体映像のように、その膜には何の手触りもなかった。膜は、何もせずに、ただおれの体を包んでいた。あれは、気味が悪かったな。
「何やってんだおまえ?」
腕をふりまわすおれを見て、友達のひとりがあきれた声をあげた。そいつには膜が見えていないから、おれの混乱する理由がわからない。
「た、助けてよ」
おれは友達に近づいた。
すると、三人の友達は、突然悲鳴をあげてあとずさった。おれは驚いて足を止めた。友達はみんな、何かすごく汚いものを見てしまったかのような目をしていた。
おれは、ぼうぜんとしながら聞いた。
「どうしたの?」
三人は困惑した様子で互いの顔を見つめあった。そしてひとりが、
「も、もう遅いから、おれ帰るよ」
と言って走り出すと、他のふたりもそれにならい、逃げるようにして公園から出て行った。
おれはわけがわからずに、ぼんやりと立ち尽くしていた。