嫌魔
その日から、利美の家で寝泊まりをすることになった。
利美の家は、新築のマンションだった。部屋が広い。かなりの金持ちだったらしい。
カレーのCMなんかで見るような、システムキッチンのある台所。寝室には、ダブルベッド。でかいテレビのあるリビングルーム。あちこちに、おそらく利美がちらかしたであろう、オモチャやお菓子の食べかすが散乱していた。おれはまず、それを掃除することから始めた。
まあ、そういうわけで、おれは利美と共に生活をすることにした。
利美は、初対面のおれにまっすぐになついてきてくれた。
でも、おれはそれに対して、あえて無愛想にふるまっていた。話しかけられても、必要な会話以外の雑談では無視をした。家の中でも、なるべく顔をあわせないように避けて行動した。
不安だったんだよ。
嫌魔に包まれているおれと話していても、利美はなんともない。この状態は、何らかの奇跡か偶然で、何かの拍子で利美も、おれのことが嫌いになるんじゃないか。そんな不安があった。
もし仲良くしたら、その分だけ、嫌われたときの失望が大きくなっちまう。だから、好きにならないように、気をつけようとした。
でも、無理だった。
いままでずっと、ひとに嫌われてきたから、理由もなく憎まれつづけてきたから、利美になつかれたことが、うれしくてしょうがなかった。表面上は冷たい態度をとっていたけど、胸の中では、あいつに対する好意が勢いよくふくらんでいった。おれが風呂に入っているときに、脱衣場にバスタオルを置いてくれたりとか、それだけで、感動して泣きそうになっちまうんだ。
利美は、おれが無視をするたびに、悲しそうにうつむいていた。