嫌魔
それからの日々は幸せだった。
利美といっしょに普通に暮らした。その普通が、おれにとってはたまらなく幸せだった。
もう無愛想な態度をとる必要はない。素直な気持ちのままで、接することができる。利美は、突然やさしくなったおれにとまどいながらも、うれしそうな笑顔を見せてくれた。
利美は、おれのことを泣き虫さんと呼んで何度もからかった。
いや、な。利美がちょっとやさしいことをしてくれただけで、つい涙が出てしまうんだよ。
たとえば、メシを食っているときに、おれが箸を落とすだろ?すると、利美が、それを拾って、渡してくれる。
それだけで、泣いてしまうんだ。
なんか、胸が熱くなって、たまらなくなってしまうんだよ。
笑うなよ。仕方ねえだろ。
嫌魔のせいで、十年以上、優しさとは無縁な生活をしてきたんだからな。
はっきりいって、このまま利美と結婚してもいいと思った。おれは、利美のことが好きになっていた。
しかし嫌魔は、そんなおれの幸せを許してはくれなかった。