嫌魔
「わからないんだ。あんなに怒るつもりはなかったのに、なぜか今日のあいつを見ていると、信じられないくらいむかむかしてきて」
親父のため息が聞こえた。
「それで、あんなことをしてしまった。そんなつもりはなかったのに、体が勝手に動いたんだ」
「あなたもなの?」
おふくろの、目を丸くする様子が、見えてくるような口調だった。
「あなたもって、おまえもなのか?」
「ええ、わたしもなぜか、いまはあの子に近づくのが、嫌で嫌でたまらないのよ。別にあの子が悪いことをしたわけじゃないのに」
「まったくそのとおりだ。今日のあの子は、何かおかしい」
「何があったのかしら?突然こんなふうに感じてしまうなんて」
まだ五歳の子供が、両親に、見ているとむかむかするとか、近づくのが嫌でたまらないとか言われた時の気持ち、想像できるかい?
おれは足が震えだした。そしてそっと部屋にもどり、布団を頭からかぶって泣いた。
父さんにも母さんにも、嫌われた。自分はきっと、明日捨てられるんだ。
そんなことを、本気で考えていたよ。
その日の夜は、不安でなかなか眠れずに、ずっと膜をながめていた。