彼が虚勢をはる理由
そして、どういう経緯か知らないけど、一応私をフォローしようとしてくれて喧嘩になってた夏野君に御礼を言おうと思って、姿を探してみると、何故か教室内には居なかった。
別に予鈴が鳴るまであと十分以上あるし、特に問題無いとは思うけど。
「香苗、どうしちゃったの? 朝っぱらから格好良い事してくれたねぇ」
ハルが近付いてきて、私の席の横に立った。
この人は、さっき口パクで何か言ってたけど、一体何を言ってたんだろう?
「おはよう、ハル。いつから来てたの?」
「いや、もう香苗が何か言ってる時だったよ。廊下にまで香苗の声、聞こえてたし」
…うわぁ、恥ずかしい真似しちゃったなぁ。
変な噂が、今日中に学年中に広まりそうな、嫌な予感がする。
ハルがさぞおかしそうに、ククッと笑う。
「…けど、見てて面白かったなぁ。普段は温厚な香苗がキレてて、それ見て男二人が口ポカンと開けてるの。漫画みたいだったよ」
「そりゃ、どーも。ってか、キレてないし」
私がふて腐れてそう言うと、ハルは途端に真顔になった。
「…で、何であんな事になってたの?」
「それが、よく分かんないのよ。私が来た時にはもう、夏野君はあんな感じで掴みかかってたし」
「は?」
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