彼が虚勢をはる理由
夏野君は私が下ろそうとしている右手を、強く握り返してきたからだ。しかも両手で。
少し痛みすら覚える右手を夏野君は引っ張る。引っ張られた私に押されて、空っぽのドリンクがカタンと倒れる。
夏野君はそのまま、私の右手の甲にキスをした。
「ぃっ…!」
驚きと恥ずかしさなあまり、声にならない叫びが、私の口から漏れる。
私の右手を引っ張り屈んだままの姿勢で、夏野君は顔を上げてこちらを見て微笑んできた。
金色の前髪から何処までも透き通りそうな綺麗な目が私を見つめてきて、右耳に並んでいるピアスがカチャカチャと音を立てる。
――直視出来ない、綺麗すぎる。でも何だかずっと見ていたい。でもそんな事は出来ずに、結局はこちらを見上げる夏野君から目を逸らしてしまう。頭ごと動かした為、私の後頭部で簪がシャラリと揺れた。
「何だよ、こっち見ろよ。"人と会話する時は、相手の目を見て"っての」
微笑んでいる夏野君からそんなキツイ言葉が出てくるとは思って無くて、でも恥ずかしさと夏野君のイケメンぶりから視線を合わせる事は難しい。
しかしそっぽ向き続けるのはさすがに失礼で、私は恥ずかしさで悶絶しそうになりながら、夏野君の顔を見た。
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