彼が虚勢をはる理由
「やっと見てくれた」
夏野君が再び微笑む。
あまりのイケメンぶりに、私の顔がまた熱くなる。
「一つだけ俺の我が儘を聞いてくれたら、良いよ」
……何でだよ! 夏野君もさっき、私のコト"好き"って言ってくれたじゃん!
それなのに、「我が儘を聞け」って、一体何なんだ!
「……何? 我が儘って」
少し不機嫌になった私は、ぶっきらぼうに返してしまう。
そんな私を気にする様子も無く、微笑む夏野君は言葉を続けた。
「俺のコト、名前で呼んでよ。"夏野君"なんて他人行儀じゃ、ヤダ」
……この人は駄々っ子か! "ヤダ"とか、子どもか!
しかし夏野君の言う事ももっともである。
えっと、夏野君の下の名前は…………。
「よういち」
「…よく出来ました。こっちこそ宜しくな、香苗」
思いっ切り子ども扱いした返事をくれた夏野君――――じゃなくて、陽一。
それよりも私は、陽一が私の名前を覚えていてくれた事に驚いた。
「…覚えててくれたんだ、私の名前。なつ…陽一って、そういう事には興味が無いんだと思ってた」
思わず今までどおりに苗字で呼ぼうとして、慌てて名前で呼び直す。
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