彼が虚勢をはる理由





「別に。…っていうか、責任というか、覚悟だろ。香苗を好きなら。覚悟も無いのに、誰かを好きでいて、ましてや付き合うとか、そんな甘い話はねぇし。恥ずかしいとか、そういう話じゃない」

「…覚悟?」


予想もしてなかった言葉が返ってきて、私は首をかしげる。


「そう、覚悟。普通に好きになるだけだったら何もいらないけど、告って付き合うなら、それなりの覚悟が必要だろ。相手に振られても嫌われても、自分は絶対に相手を嫌わない覚悟とか。相手への感謝を忘れない覚悟とか。世界中が敵になったとしても、自分だけは相手の味方でいる覚悟とか。名前で呼ぶのは、俺にとっては、覚悟表明のつもり」


陽一の硬派で格好良すぎる返事に、私は何だかドキドキしてきた。
そのまま陽一は、明るい前髪の隙間から、横目で私を見てくる。


「……まさか香苗は、そういう覚悟が全く無いまま、俺に告ってきたわけ? それなら、例えどんなに香苗が切なくても、俺と香苗が両想いだとしても、悪いけど付き合う事は出来ないよ」

「な……っ!」


何て意地悪で、恥ずかしくて切ない確認なの!? その覚悟の大きさに、重さに、ヒリヒリしたような痛みまで感じてくる。
ドキドキから一気に地獄に落とされた私は、陽一を見つめたまま絶句する事しか出来ない。





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