彼が虚勢をはる理由





「香苗、どうなの? 覚悟を決めて、俺に告ってくれてた? その覚悟で、俺の名前を呼んでくれる? 一方的な甘っちょろい想いならいらないよ」


その言葉を聞いて、私は一回目を閉じる。
さっき、陽一は"私のコトを好き"と言ってくれた。だから、もし私が覚悟無しに陽一に振られたとしても、陽一は私を同じ痛みを抱える事になる。
そのヒリヒリに、私はそれこそ覚悟を決めた。私自身だけならまだしも、私が生半可な所為で陽一に辛い想いはさせられない。
――――そもそも、私は陽一のコトを知りたいと思ったんだ。暴力沙汰の多い陽一となら、それくらいの覚悟無しには、仲良くなる事すら出来ないよ。
目を開けて、深呼吸をした。


「大丈夫だよ、陽一。それくらいなら、一番最初から覚悟出来てるよ。付き合うとか、それ以前から、私は陽一の真意を確認してから、行動するようにしてる」

「そうこなくっちゃ」


陽一は金色の前髪をかきあげ、ニコッと微笑んだ。
……この笑顔が素敵で、イケメンで、硬派で格好良い人が、私の彼氏になる人かぁ。
そう思ってしみじみと見つめていたから、陽一の顔が少しずつ近づいて来ていた事に、全く気付かなかった。


「香苗」


ふと名前を呼ばれて気付くと、陽一の顔は目の前にあって、そのまま静かに頬にキスされた。


〈fin.〉





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