彼が虚勢をはる理由

ご。






帰り道、駅の改札を通ろうとしたら、夏野君が来るのが見えた。
私は改札を通った所で少し待ち、夏野君が改札を通る時の手元をガン見する。

定期に書かれていたのは、確かに優美が使う電車と同じ名前。
しかし駅名は、私の記憶が間違って無ければ、優美の住む方とは反対方向の筈。
――私はシカトされる覚悟で、夏野君に声をかける。


「夏野君の使ってる駅って、エレベーターとか完備してる?」


沈黙。
あ、やっぱシカトされた。


「……エスカレーターはあるけど、エレベーターは無い」


少し経ってから、ようやく返事が返ってくる。
私は質問を続けた。


「夏野君は毎朝、エスカレーターを使えない誰かを、助けたりしてるの?」


私を見た夏野君は、とても驚いた顔をしていた。
それは普段の、イケメンだけど不機嫌そうな夏野君の顔からは、とても想像出来ない表情だった。


「…………誰から聞いた?」

「隣りのクラスの、風見優美」

「あー、風見かぁ。仕方ねぇなぁ、アイツも」


夏野君は苦笑しつつ、まるで諦めたように溜め息を吐き、でも何かから解放されたように、大きく伸びをした。
駅舎の窓から入る夕日に照らされた夏野君は、それはそれは格好良かった。





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