彼が虚勢をはる理由
「取り敢えず、ホーム行かねぇ? 俺、座りたいんだけど」
私と夏野君はホームに移動して、ベンチに座る。
あたしがベンチに座った後、夏野君は何処かに行ってしまったが、すぐにお茶の入ったペットボトルを二本持って戻ってくる。
夏野君はそのペットボトルの片方を、私に投げて寄越してきた。
「はいよ」
「幾らだった?」
私はお茶の代金を払おうと思って、鞄から財布を出そうとする。
夏野君は、私の左側に座った。夏野君の右耳に並んでるピアスが光る。
「いらねぇ。奢り」
「…どうも」
夏野君にお茶を奢ってもらう義理なんて、正直言って何処にもない。
…何か悪いな。でも喉が渇いてたし、正直有り難かったりする。
「俺、関西から越してきたけど、その前はこっちに住んでたってのは、知ってる?」
夏野君は唐突に話し始めた。
私は慌てて、夏野君の話に集中する。
「知ってる。中学、優美と一緒だったんだって? 昔可愛がってくれた近所のお婆ちゃんに、優しくしてるって聞いた」
「おぅ。……アイツもお喋りだなぁ。そこまで話したのかよ」
夏野君は苦笑しながら、お茶を飲む。
私もタイミングを合わせて飲んだ。
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