彼が虚勢をはる理由





――夏野君が教室に戻ってきたのは、その後の現代文の授業も終わって、昼休みになってからだった。
その時の私は、ハルや舞子と一緒に食堂に菓子パンを買いに行っていて、しかもその後もハルや舞子と一緒に昼食を食べたので、夏野君が教室に戻ってきていた事を知っていても、直接話が出来たのは五時間目が始まる少し前だった。
……ただ、ハルが気を遣ってくれたのか、昼食の時の話題に夏野君が出てこなかったのは、言うまでもない。


「お帰り、夏野君」


自分の席に座る時に夏野君に声をかけてみるが、夏野君は欠伸を一つしただけで、返事は返ってこない。
…またシカトされた。少し――。


「夏野君、その右手、どうしたの?」


敢えて違う切り口で、もう一回、夏野君に声をかけてみる。
これで返事が無かったら、今日はもう話すのは無理かもしれないな。
夏野君は、こっちを見ないまま、少し溜め息を吐く。


「三年殴ったら、腫れた」

「……ひょっとして、それで、さっき呼び出された?」

「あぁ」


夏野君、本当に三年の先輩達を殴ったんだ……。
ハルが彼氏から聞いたという話が事実だったという事を知って、何だかショックを受ける。

少し夏野君を見てみてみたら、夏野君は私を思い切り見ていて、思わず目を逸らしてしまった。
けど後から、夏野君に三年を殴った本当の理由を聞くチャンスを逃してしまった事に気付いた。





.
< 23 / 145 >

この作品をシェア

pagetop