彼が虚勢をはる理由
ショックを受けたまま日本史の授業が終わり、パタパタとノートをしまう。
私は立ち上がろうとする夏野君に、声をかける事にした。
「夏野君!」
…振り返らない、シカト。
まぁ、一度目を無視されるのは、いつもの事だから。
「夏野君ってば!」
「何?」
「…あの。当てられた時、起こしてくれて、ありがと!」
よし、言えた。
すると、夏野君はククッと笑った。右耳に連なるピアスが揺れる。
「本当に、よく寝てたよなぁ。家庭科の時なんて、小さく鼾までかいてたぞ」
「げっ」
「マジ。何、寝てないの?」
「……まぁね」
昨日は色々と考えてしまって、結局眠れなかった。
出来るなら、声を大にして言いたい。
私が昨日、一睡も出来なかった、本当の理由は――。
「寝不足は辛いっての。ちゃんと寝ろって」
「言われなくても、分かってるし」
寝不足が高校生の天敵だなんて、そんな事は百も承知だよ。
お肌だって荒れてしまう。
だから、私が眠れなかった、本当の理由は……。
それが夏野君にとって、御節介なのは、よく分かってるつもり。
私が突っ込んで良い話だとも思えないし。
けど、気になっちゃうんだ。
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