彼が虚勢をはる理由
さん。
「……夏野! 夏野陽一はいるか!」
梅雨入り宣言直後のある日の昼休み、生活指導の先生が、教室に怒鳴り込んできた。
その後ろには、こっそりと様子を窺う学年主任の姿が見える。
私は舞子と一緒に、食堂の新作のサンドイッチを食べてみていた。
彼氏と昼食を食べるというハルは、今日はいない。
自分の席でスポーツドリンクを飲んでた夏野君は、少しだけ機嫌悪そうに立ち上がる。
そのまま教室を出ようと歩き出した夏野君は、私と舞子のすぐ横を通った。
「夏野君!」
小さく声をかけて、シャツの裾を掴んだ私の手を、夏野君は振り返る事もなく、優しく、だけど力強く振り払った。
払われた手は行き場を失い、宙を舞ってから落下する。
そのまま夏野君を出て、生活指導と学年主任と一緒に、何処かに行ってしまった。
「香苗、夏野君と仲良いの?」
気が付くと、舞子が心配そうに、こちらを覗き込んでいた。
私は、何も知らないフリをして返す。
「え、何で?」
「夏野君、転校してきて結構経つけど、まだあんま喋ったりしてないじゃん」
「みたいだね」
「しかも、今の香苗の行動、かなり大胆だったよ」
「そう?」
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