彼が虚勢をはる理由
ハルの手には、いつだったか貸し出した漫画と、その御礼なのか缶コーヒーが握られている。
…そういやハルが持ってる漫画は、随分前に返してもらう約束になってた。相変わらず律儀だ。
「香苗、コレありがとうね。遅くなってごめん」
「全然大丈夫だよ。どうだった?」
「もー、マジ面白かった!! 読んで良かったよ。コーヒーは、遅くなったお詫びね」
「そうか。そりゃ良かったよ」
私は"やっぱり"と思いつつもそれを口に出さず、漫画と一緒に有り難く缶コーヒーも受け取る。
寝不足で眠いから、ちょうど良かった。
ハルの横では、舞子が妙にニコニコしていた。
「ところで香苗、昨日はあの後、どうだった?」
「……はい?」
ニコニコ顔の舞子、横でハルもニコニコしている。
…これはアレか、私の苦手なヤツに雪崩れ込む流れか。嫌な予感がする。
私は内心で冷や汗を流しながら、舞子の質問に応える。
「…昨日のあの後、って何?」
「嫌だなぁ~香苗は。恍けちゃって」
このこのぉ、と突いてくるハルに、私の冷や汗はもれなく増量する。
舞子のその後の言葉は、私の中に照れくささの爆弾を落とした。
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