彼が虚勢をはる理由





「それとも、星崎が日野と太田に、昨日の話をしてたトコらへんかな?」

「ずいぶん前の方じゃん…」


それも嫌、恥ずかしいっての。
その後の長い話、全部聞かれてたっていうの?


「う~ん。かなり長い話を聞いてたのは間違いねぇけど、どこから聞いてたか忘れちった」

「マジで勘弁してよ……」


夏野君はまるで舌でも出しそうな感じで、悪戯っぽく笑いながら言った。
何コレ、照れくさすぎる…。どこから聞いてたか、絶対に分かってたでしょ、夏野君。
で、やっぱり真っ赤になっただろう私を、からかって面白がってる。
でも私が、そういう悪戯っ子っぽい夏野君が本当に気になってるのは、紛れもない事実だったりして。

夏野君が、何かの理由無しに、ぶっ飛んだ事をする筈が無い。きっと事情がある。
それは、もはや私の確信。
夏野君のその"理由"を、私はもっと知りたい。


今日も夏野君の両手は、腕時計も含めて、何も着けられていなかった。
その裸の両手は、"この両手で、好きに誰かを傷付けたいわけじゃない。ただ、守る為だけにある"と、無言の主張をしているようにすら見えた。
それも、あくまで私の確信だったけど。
それが、夏野君なりの優しさだと思うから。





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