彼が虚勢をはる理由





「そうそう。それが勝手に、聞こえてきただけ」

「ウチらは香苗に、一緒に帰ろうって誘いに来ただけだもんね」


「ねー」と、仲良く頷き合うハルと舞子。
舞子の手にはテニスのラケットが握られて無いから、今日はテニス部の活動も休みなんだろう。


「いやぁ~、聞いてる分には面白いんだけどね」

「香苗もついに、恋する乙女になったか~、って感じで」

「いや、面白がらないで欲しいんだけど」


ハルと舞子は、私の言葉に聞く耳を持たない。
いや、聞けよ。聞けってば。


「夏休みが明けたらで良いから、香苗の恋バナや、夏野君との進展とか、色々教えてね!」

「楽しみにしてるから!」

「…いや、たぶん教えられる事なんて、何も無いと思うけど」


楽しげに私にウインクしてくるハルと、その横でニコニコしている舞子。
そして、それを見て冷や汗をかく私。
二人は、私が夏休みを父方の田舎で過ごしている事を知らない。
知らないからこそ、夏休みの間の進展を期待出来るんだろうな。一夏の恋なんて存在しないのに。

私の一学期は、最悪すぎる英語の成績と、ハルと舞子にからかわれて終わった。
……微妙だ、微妙すぎる。もはや嫌な予感しかしないよ。





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