彼が虚勢をはる理由

よん。






夏祭り当日。
私は強制的に紅実ちゃんに浴衣を着せられ、半ば強制的に夏祭りに連れて行かれる事になった。
浴衣なんて本当に久しぶりで、普段はそういう格好を絶対にしない私は当然浴衣を持ってる筈もなく、紅実ちゃんの浴衣を借りて着る事になった。
どちらかというと、私が浴衣を着る事を、私よりも紅実ちゃん、そして何より御祖父ちゃんと御祖母ちゃんが楽しみにしていた。


「ね、祖父ちゃんと祖母ちゃん、香苗が浴衣着る事に喜んでたでしょ?」


夏祭りに向かう道の途中、同じように浴衣姿の紅実ちゃんが話しかけてきた。
紅実ちゃんの話によると、御祖父ちゃんと御祖母ちゃんは、私が浴衣や可愛い格好をせずに、比較的シンプルな服ばかりを着ている事を気にしていたらしい。
私に言わせれば服くらい自由に選ばせて欲しいけど、御祖父ちゃんと御祖母ちゃんは、私が可愛い格好をする事を望んでいたようだ。


「…まぁ、たまにはこういう格好するのも、悪くないかもね」

「大丈夫だよ、香苗、可愛いよ。似合ってる似合ってる」


私が着ている浴衣は紺色にピンクで大輪の朝顔が幾つも描かれた柄で、茶髪は蝶の飾りが揺れる簪で結われていた。





.
< 64 / 145 >

この作品をシェア

pagetop